睡眠時無呼吸症候群
(SAS)とは
睡眠中に、呼吸が止まってしまったり、呼吸回数が少なくなったりする状態が頻繁におこっている場合、睡眠時無呼吸症候群が疑われます。英語のSleep Apnea Syndromeの頭文字をとってSAS(サス)とも呼ばれています。
無呼吸とは10秒以上呼吸が止まっている状態を言い、そうした状態が少なくとも1時間に5回以上あらわれている場合SASを発症している可能性が高くなります。
無呼吸を繰り返すことで、血中の酸素濃度が不足し、体に酸素が行きわたらなくなり、一方で炭酸ガスが増加し、組織に様々な弊害をもたらします。また、無呼吸・低呼吸によって胸郭内の圧量が低下し、心臓に大きな負担がかかることもあり、放置すると突然死のリスクが高くなります。
さらに、睡眠が浅くなって脳が覚醒してしまうことで、交感神経が優位となり、脳・心臓・血管などに負担がかかりやすくなります。
また、しっかりと睡眠がとれないことで、疲れがたまる、日中激しい眠気に悩まされる、集中力が低下するなど、生活の質も大きく低下していきます。
こうした状態を放置すると、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病も併発しやすくなり、さらに健康を害して、脳血管障害や心筋梗塞などの重篤な疾患を発症する恐れがあります。
激しいいびきや呼吸がとまっているなど、少しでも気になることがあればお気軽にご相談ください。
睡眠時無呼吸症候群の
合併症について
心臓病
冠動脈が動脈硬化などで狭窄して治療を受けた患者様に対する調査によると、SASを発症した後、心血管の狭窄や閉塞といった血流障害の発症率が高くなっているという報告があります。
また、こうした疾患で手術を受けた方で、SASを発症している人とそうでない人を比べると、SASを発症している人の方が冠動脈の血流の悪化傾向が高いという報告もあります。
脳血管障害
重症度の高いSASがあると、脳出血や脳梗塞といった脳血管障害の発症リスクが、SASがない人とくらべて3倍高いという調査結果があります。
糖尿病
SASのある人とない人を比べると、SASがある人の方が糖尿病の発症率が1.6倍程度高くなるという報告があります。またSASの重症度によって糖尿病の発症率が高くなることもわかっています。
高血圧
日本における高血圧症の患者様のうち、SASが原因となって高血圧がおこっている人がおよそ全体の3~4割いると考えられています。一方で、高血圧症を発症している人はSASを発症しやすいという報告もあります。
睡眠時無呼吸症候群
(SAS)の種類
SASはその原因から大きく2つに分けて考えることができます。
1つ目は口中やのどなどの空気の通り道が何らかの理由で狭くなったり閉塞したりして無呼吸がおこるものです。これを閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と言います。
もう1つは呼吸をコントロールしている脳などの中枢からの指令が一時的に途絶えることで発症するもので、これを中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)と言います。
ある報告によると、OSASの患者様が圧倒的に多く約84%、CSASの患者様は0.4%程度で非常に稀で、残りの15%程度は双方の混合型という結果がでています。
睡眠時無呼吸症候群
(SAS)の症状
睡眠中の症状は、無呼吸や低呼吸、低呼吸にともなう激しいいびきなどが特徴的です。あまりにも症状が激しい場合、一時的に目覚めてしまうこともありますが、半分眠ったような状態なのでご自身で気が付くケースはほとんどありません。
主な自覚症状としては、
- 我慢できないほど日中に眠くなる
- 起床時にからだがだるいと感じる
- 起床時に頭痛が起こって30分ほどで痛みが消える
- 倦怠感がひどい
- 疲労感が続く
- 集中力が続かない
- 抑うつ症状がある
- 夜間頻尿で目覚めてしまう
- 胃腸の調子が悪い
- のどの痛みや炎症
など様々な症状があります。
睡眠時無呼吸症候群
(SAS)の検査
睡眠状態などの問診でSASが疑われる場合は、実際の睡眠状態や無呼吸の頻度、程度を調べるために検査を行います。
まずは質問票を使って調べる「エプワース眠気尺度」、専用の機器を貸し出しして、ご自宅でできる「簡易検査」を行います。これらで正確な判定ができない場合は、入院して行う「終夜睡眠ポリグラフ検査」という精密検査を検討することになります。
エプワース眠気尺度(ESS:
Epworth Sleepiness Scale)
日中の生活場面で、眠ってしまう可能性があるかどうかを、ご自身で評価していくテストです。
以下の8項目の質問に対して以下の4段階で自己評価し、点数の合計を計算します。
16点以上だと重症の疑いがあります。また、11点~15点の方は、睡眠時無呼吸症候群の疑いが高いので、病院での検査や治療が必要となります。
回答項目
うとうとする可能性はほとんどない | 0点 |
---|---|
うとうとする可能性は少しある | 1点 |
うとうとする可能性は半々ぐらい | 2点 |
うとうとする可能性が高い | 3点 |
質問項目
状況 | 点数 | |||
---|---|---|---|---|
1)すわって何かを読んでいるとき(新聞,雑誌,本,書類など) | 0 | 1 | 2 | 3 |
2)すわってテレビを見ているとき | 0 | 1 | 2 | 3 |
3)会議,映画館,劇場などで静かにすわっているとき | 0 | 1 | 2 | 3 |
4)乗客として1時間続けて自動車に乗っているとき | 0 | 1 | 2 | 3 |
5)午後に横になって,休息をとっているとき | 0 | 1 | 2 | 3 |
6)すわって人と話をしているとき | 0 | 1 | 2 | 3 |
7)昼食をとった後(飲酒なし),静かにすわっているとき | 0 | 1 | 2 | 3 |
8)すわって手紙や書類などを書いているとき | 0 | 1 | 2 | 3 |
(日本語版 the Epworth Sleepiness Scale(JESS):日本呼吸器学会より引用)
簡易検査
簡易検査は、問診や診察などでSASの疑いが強い場合に、当院から検査機器を貸し出ししてご自宅で行っていただく検査です。検査は睡眠時に顔(鼻と口を覆うマスク状のセンサー)と指先にパルスオキシメーターを装着し、睡眠時の呼吸の頻度や深さ、酸素濃度や脈拍を測定するもので、2箇所にセンサーをつけるだけで体にほとんど負荷がかかりません。
検査装置にデータが記録されますので、装置返却後、医師がデータを解析して診断を行います。診断は1時間あたりの無呼吸および低呼吸の平均回数をAHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数)という数値であらわして、その重症度を測ります。
正常 | 軽症 | 中等度 | 重症 | |
---|---|---|---|---|
AHI | 0~4 | 5~15 | 15~30 | 31~ |
終夜睡眠ポリグラフ検査
(PSG)
簡易検査の検査項目である呼吸運動や酸素飽和度に加えて、脳波、眼球運動、心電図、体温、炭酸ガス濃度、いびき、体位などについて詳しく検査をします。とりつけるセンサーの数も多いため、検査ができる病院で1泊入院して検査を行います。
睡眠時無呼吸症候群
(SAS)の治療
CPAP療法
検査の結果、閉塞性のSASと診断された場合、治療の基本は睡眠時に装着する機器を使用したCPAP(Continuous Positive Airway Pressure)療法を第一選択とします。中枢性の場合にもCPAPが効果を発揮する例はありますが、今のところ限定的なものと考えられています。
CPAPは空気を送り込むマスクを睡眠時に装着し、機器から送られてくる空気の圧力によって気道が狭窄、閉塞することを防いで、空気の通り道を確保する治療です。
閉塞性の場合、呼吸動作そのものは存在しますので、気道が確保されることで、無呼吸やいびきが低減し、睡眠の質が確保されることで日中の症状も低減していき、合併症の発症リスクも減少します。
診察の流れ
健康保険適用でのSASの治療の流れは以下のようになります。
1問診
自覚症状や自覚の経緯、既往症、服薬歴等について詳しく伺います。その際、睡眠に関してお悩みのことがあれば、遠慮なくご相談ください。
2簡易検査
当院では、簡易検査の機器を貸し出ししております。使用方法については詳しくご説明しますので、ご自宅で簡易検査を行ってください。就寝時に腹巻きのように装置を着用し、そこから出ているセンサーを鼻(顔)と手指の先につけてお休みいただくだけで簡単に測定ができます。
3再診
検査機器をお持ちいただき再診となります。その際装置に記録されたデータを医師が分析し、1時間あたりの平均無呼吸回数をAHIという数値にして算出します。AHIが40以上の場合は、CPAPによる治療が保険適用で可能となります。AHIが21~39の場合は、1日~2日入院して標準睡眠ポリグラフ検査となり、その結果によってCPAP療法が適用になるかどうかを判断します。
AHIが20以下の場合は、CPAP以外の治療法を検討することになります。
CPAP以外の治療
生活習慣の改善
SASは患者様それぞれの骨格、体型などによって発症しやすい傾向があります。とくに肥満があるとSASを発症しやすいと言われています。まずは食生活の見直し、運動習慣を身につけるなどによって肥満解消につとめましょう。
また、アルコールは筋肉や血管を弛緩させる働きがありますので、過剰な飲酒によって気道の閉塞がおこりやすくなってしまいます。飲酒は適量を守りましょう。
また寝る際の姿勢も気道と大きく関係があります。とくに仰向けで寝ると気道が狭くなりやすいため、横向で寝るかクッションなどで上半身を少しもちあげるようにするなど、ご自身で楽な姿勢を探してみてください。
外科的治療
SASでは外科的な治療はあまり行われませんが、時に口蓋の形態によって舌が気道を塞いでしまうような場合、外科的な治療を行うこともあります。
マウスピース装着
ご自身の口の形にあわせて、下顎の位置を調整するマウスピースを装着して就寝していただく治療法です。マウスピースはそれぞれ型をとってオーダーメイドとなります。そのため、当院ではこの治療を行う場合には、連携する歯科医院をご紹介しております。マウスピースの作成は保険適用で行うことができます。
ささいなことでもお気軽に
ご相談ください
日本で治療が必要な睡眠時無呼吸症候群(SAS)の罹患者のうち、85%の方が未受診のままでいるという報告があります。SASは、ご自身の健康を損ねるばかりではなく、日中の眠気によって重大な事故をおこしてしまうようなケースもあり、実は、ご自身の日常生活やご家族にまで大きな影響がおよぶ重篤な疾患です。
しかし睡眠中のことなので、ご自身ではなかなか気づかない場合がほとんどです。ご家族からいびきや呼吸が止まったなどの指摘を受けたり、日中の眠気や集中力の低下など、気になることがありましたら遠慮なくご相談ください。