運動で血糖値が上がる?糖尿病患者が避けるべき4つの危険な運動習慣

監修:薗田憲司(内科医師・糖尿病専門医)|そのだ内科クリニック(東京都渋谷区)
「運動=血糖値が下がる」と言われていますが、やり方を間違えると運動で血糖値が上がるリスクがあることはご存じでしょうか?糖尿病患者さんの診療に携わる中で、頑張りすぎた結果として体調を崩すケースも目にしてきました。
この記事では、糖尿病をお持ちの方が特に注意すべき「逆効果になりやすい運動パターン」と、自宅で安全に継続できる運動を医学的根拠とともに解説します。ご自身の運動習慣を見直すきっかけとしていただければ幸いです。
運動で血糖値が上がるメカニズム
運動をすることで血糖値が下がるのは、筋肉がブドウ糖を取り込むためです。しかし、運動の強度や状況によっては、逆に血糖値を上昇させるホルモンが分泌されることが知られています。
高強度運動がストレスホルモンを分泌するしくみ

身体に強い負荷がかかると、コルチゾールやアドレナリンといった「ストレスホルモン」が分泌されます。これらのホルモンは肝臓に蓄積されたグリコーゲンを分解し、血中へブドウ糖を放出する作用を持つため、運動中・運動後に血糖値が上昇することがあります。
運動の効果は種類・強度・タイミング・個人の体調によって大きく異なります。ご自身の状態に合った運動については、必ず主治医にご相談ください。
血糖値を上げるリスクがある4つの運動習慣
以下に該当する習慣がある場合は、運動の内容や強度の見直しを検討してみてください。
1万歩ウォーキングは糖尿病患者に向かないことがある
1万歩のウォーキングは約300kcalの消費が見込まれ、一見理想的に思えます。
しかし実際の診察では、「長く歩き続けた結果、膝や足腰を痛めて結果活動量が減った」というケースが少なくありません。40代以降は関節や筋肉への蓄積ダメージが出やすいため注意が必要です。
加えて、有酸素運動に偏った運動は筋肉量の維持・増加には不向きな場合があり、長期的には血糖コントロールが難しくなる可能性も考えられています。「続けられなくなること」自体が、最大のリスクのひとつです。
高強度の筋トレで血糖値が上がる可能性がある
また、過度な高強度トレーニングも注意が必要です。前述のとおり、強い負荷は血糖値を上げるホルモン分泌を促すことがあります。
HbA1cが10%以上の方や、5年以上の高血糖が続いている方が急激に血糖値を下げようとするのも危険を伴うことがあります。1か月にHbA1cが1%以上低下すると、糖尿病性網膜症が悪化するリスクが高まると報告されています(日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」)。
空腹時の運動は低血糖を引き起こすことがある
「食前に運動すると痩せやすい」という情報はインターネット上でよく見られますが血糖コントロールに不安のある方にとっては低血糖のリスクを伴う行動です。
空腹時は体内の利用可能な糖が少ない状態であり、運動によってさらにエネルギーを消費すると、低血糖を引き起こします。低血糖の症状には、手足の震え・冷や汗・動悸・意識の遠のきなどが含まれ、重篤な場合は救急搬送に至るケースもあります。
特にインスリンや血糖降下薬を使用中の方は、空腹時の運動には十分な注意が必要です。運動前には少量の補食を摂る、手元にブドウ糖補給アイテムを用意しておくなどの対策が有効と考えられます。
網膜症がある場合の運動は失明リスクを伴うことがある
糖尿病性網膜症は、自覚症状がないまま進行することが多い合併症です。「最近目がかすむ」「視力が急に落ちた気がする」「物がぼやけて見える」といった症状は、疲れや加齢として見過ごされがちですが、網膜症のサインである可能性があります。
網膜の血管は非常に細く、高血糖の持続によるダメージで脆弱になっています。そのような状態で息をこらえて力む運動や高強度の運動を行うと、一瞬で眼圧・血圧が上昇し、網膜出血を引き起こすリスクがあります。最悪の場合、失明につながることも報告されています。
網膜症の診断がない方も含め、糖尿病をお持ちの方は年1回以上の眼科受診が推奨されています(日本眼科学会ガイドライン)。気になる症状がある場合は、早めに眼科を受診してください。
安全に血糖値を下げるための2分間おうち運動
これまでのリスクを踏まえ、「では実際にどんな運動をすればよいのか」という疑問にお答えします。大切なのは、量やきつさよりも続けやすさです。体力に自信がない方でも取り組みやすい2つの運動を紹介します。
その場足踏みウォーク(30秒×4セット)

テレビを見ながらでもできる、室内で完結する運動です。以下の手順で行います。
- 1.胸を軽く張り、背筋を伸ばして立つ
- 2.太ももを軽く持ち上げながら足踏みをする
- 3.肩甲骨を意識して腕を大きく後ろに引きながら振る
肩甲骨まわりと太ももは体の中でも大きな筋肉群に属します。大きな筋肉を動かすことで、筋肉へのブドウ糖取り込みが促進され、血糖値を下げる効果が期待できると考えられています。30秒1セットを目標に、4セット(計2分)を目指してみてください。
ゆったりスクワット(10回×3セット)

椅子を使って行う安全なスクワットです。膝や腰への負担を軽減しながら、下半身の大きな筋肉を効率よく刺激できます。
- 1.椅子の前に立ち、足を肩幅程度に開く
- 2.背筋を伸ばし、手は胸の前で組むか前方に伸ばす
- 3.ゆっくりとお尻を椅子に向かって下ろし、触れたら立ち上がる
-
- 下半身には体全体の60〜70%の筋肉が集中しているとされており、太ももとお尻を動かすことは、血糖値・HbA1cの改善に効率がよいと考えられています。膝がつま先より前に出ないよう意識し、ゆっくりとした動作で行うことが重要です。
はじめは1セットから始めても構いません。ご自身の体調・体力・ライフスタイルに合わせて、無理なく継続することを最優先にしてください。
よくある質問(FAQ)
運動して血糖値が上がることは本当にあるのですか?
はい、あります。特に高強度の運動では、コルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンが分泌され、肝臓からブドウ糖が放出されることで一時的に血糖値が上昇することがあります。また、空腹時・過度な運動・睡眠不足なども影響する場合があります。詳しくは主治医にご相談ください。
1日何歩歩けばよいですか?
日本糖尿病学会のガイドラインでは、週150分以上の中等度の有酸素運動が推奨されています。1万歩を目標にすること自体は悪くありませんが、痛みや疲労を感じる場合は無理に続けず、負担のない範囲から始めることをお勧めします。まずは「いつもより少し多く動く」という小さな目標が継続につながりやすいと考えられます。
食後と食前、運動するならどちらがよいですか?
糖尿病をお持ちの方には、食後30分〜1時間の運動が比較的安全とされています。食後は血糖値が上がりやすいタイミングであり、このときに軽い運動をすることで食後高血糖を抑える効果が期待できます。空腹時の運動は低血糖リスクがあるため、特に薬を服用中の方は避けることが望ましいとされています。
筋トレと有酸素運動はどちらを優先すべきですか?
どちらも血糖コントロールに有益とされており、組み合わせることが推奨されています(日本糖尿病学会ガイドライン)。有酸素運動は直接的な血糖低下、筋力トレーニングは筋肉量の維持・増加による長期的な代謝改善に寄与すると考えられています。ただし、合併症の有無や体力によって適切な種類・強度は異なりますので、主治医にご確認ください。
網膜症があっても運動できますか?
網膜症の程度によります。単純網膜症の初期段階では軽い運動が許可される場合がありますが、増殖網膜症や眼底出血がある場合は、息をこらえる運動や高強度の運動は避けるよう指導されることが多いです。必ず眼科・糖尿病内科の医師と相談のうえで運動内容を決めてください。
インスリンを打っている場合、運動に特別な注意はありますか?
はい、インスリン使用中の方は低血糖リスクが特に高いため、運動前後の血糖測定、補食の準備、注射部位への配慮などが必要になる場合があります。また、運動の種類や強度によってインスリン量の調整が必要になることもあります。担当医・看護師・管理栄養士と連携しながら安全に進めることが重要です。
まとめ
「運動をすれば血糖値が下がる」というのは正しい認識ですが、やり方を誤ると運動で血糖値が上がる、あるいは合併症を悪化させる可能性があります。特に注意すべきポイントを整理すると以下のとおりです。
- ●1万歩ウォーキングは体への蓄積ダメージや継続困難のリスクがある
- ●高強度の筋トレはストレスホルモンの分泌により血糖値を上げることがある
- ●空腹時の運動は低血糖を引き起こしやすい
- ●網膜症がある場合、高強度運動は眼底出血・失明リスクを伴う
安全に続けられる運動の基本は、量よりも継続性です。自宅でできる2分間の軽い運動から始め、体調・体力・合併症の状況に合わせて少しずつ負荷を調整していくことが、長期的な血糖コントロールの改善に結びつくと考えられます。
個人差がありますので、運動を始める前・変更する際は必ず主治医にご相談ください。特に合併症のある方、薬を服用中の方は、専門家の指導のもとで進めることが重要です。
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参考文献:
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
- Jamka M, et al. "The Effect of Resistance Training on Glycated Hemoglobin in Patients with Type 2 Diabetes." PubMed Central PMC7893808 (2021)
- 日本眼科学会「糖尿病網膜症診療ガイドライン2023」
- American Diabetes Association "Standards of Medical Care in Diabetes 2024." Diabetes Care, Vol.47, Supplement 1.
- Sigal RJ, et al. "Effects of aerobic training, resistance training, or both on glycemic control in type 2 diabetes." Annals of Internal Medicine, 147(6), 357-369 (2007)
免責事項:
本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の診断・治療行為を推奨するものではありません。記事内の情報はあくまでも一般的な医学的知見に基づくものであり、個々の病状・服薬状況・合併症の有無などによって適切な対応は異なります。運動の開始・変更にあたっては、必ずかかりつけ医・糖尿病専門医にご相談ください。本記事の情報に基づいて生じたいかなる不利益についても、著者および当クリニックは責任を負いかねます。
記事作成日:2026年2月26日


